本格的にイロガミサマの調査をはじめた私は手始めに手紙をもらった読者のところを訪問することにした。父のノートに書かれたカミサマと同じようなイラストを書いてくれた読者のところに向った。

 そこは長野県の中部に位置する安曇野という町だった。北アルプスの山々から吹き下ろす涼しい風が私を出迎えてくれる。私は最寄り駅から歩く私は道の横を流れる小さな川が気になった。透明度の高い清流だった。
「かなり冷たい」
 雪解け水なのだろうか、もう春だというのに水は相当冷たかった。
 目的の家は駅から歩いて30分、小高い山の中腹にあった。
 手紙の送り主は大学生の青年である。
「そいつは変な赤い帽子みたいなものをかぶっていて、俺に色のアドバイスをしてくれたんだ」
 と青年は言って、私に送ってくれたイラストと同じようなものを見せてくれた。
「どんなことを?」
「今年の冬は豪雪でして、なにしろ雪が多くて、それなのに俺の部屋の暖房が調子が悪くて、寒い寒いと布団にくるまっていたら、突然、そいつがでてきて、赤い服を着ろって、下着とかTシャツでいいから、感温度が何度か違うって言っていました」
 青年の表情から嘘を言っている感じではないと思った。こいつはすごい。すると様々な疑問が湧いてきた。
「そいつの大きさは? どこから出て来たの? だいたい日本語をしゃべるの?」
 私が興奮して早口でまくしたててしまったため、青年は少し驚いた様子だったが、ゆっくりと続けて答えてくれた。
「気がついたら部屋にいて、どこから来たのかはわからないです。そういえば普通の日本語でした。あぁ、大きさはこんな感じかな」
 青年は両手で大きさを示した。10cmぐらいだろうか。私は意外と小さいなと思った。
「それでそれからそいつ、いやその不思議な生き物どうしたのは?」
 もしかしたら相手は神様かもしれない。呼び方は気をつけなくてはと思った。
「いや、なんか他にもブツブツ言って、そして、気がついたら消えていました」
「それはいつごろの話?」
「4ヶ月ぐらい前でしたか…」
「それから今までその生き物は?」
「いや〜でてきてないです」
「一度も?」
「はい。それっきりです」
 私が腕を組んで唸っていると、青年が「そうだ」と何かを思い出した顔をした。
「思い出しました。ブツブツ言っていたこと。そいつ、この場所には他の神様がいるから居心地悪いって、言っていました」
 私は思わず口元が緩んだのを覚えている。こいつ、いやこの方は本当に神様、『イロガミサマ』なのだと私は確信していた。

  それから私はイロガミサマを見たという読者のところに行って詳しい話を聞く日々を送った。しかし、なんとももどかしい存在で、つい最近まで出て来たと言われるのだが、ちょうど読者のところに行くと数日前から姿が見えなくなるという。なんともイロガミサマたちの後ろを追い続け、後ろ姿が見えそうになる瞬間に消えてしまう感じであった。

  はっきりとわかったことはふたつ。ひとつは色に困っている人のところに現れて、色に関するアドバイスをして、しばらくするとどこかに消えてしまうということ。そう「ドラえもん」のような存在なのだが、この「ドラえもん」はずっとのびた君のところにはいないのだ。もうひとつはどうやら、色によって違う複数の神様がいて、その形状が大きく異なっているということである。確認できたのは赤、青、黄色の3種のカミサマである。このカミサマたちは色によって性格も違うようだ。

 私は面白くなって色々と足取りを追ったのだが、ずっと掴めない日々が続いた。私は諦めかけていて、たどり着けないかなと感じていたときに、思わぬチャンスが現れた。イロガミサマを探し始めて約1年、福島の会津若松に行ったとき、ふいにある神社を訪れた。そこにある巨大な赤ベコの造作物を見ていたとき、ふいにどこからともなく声が聞こえたのだ。

「おい」

 私は声がした方を見たが誰もいない。おかしいと思って探してみても姿はなかった。

「ここだ、ここだ」

 もう一度、声をした方を見ると、巨大な赤ベコの上に不思議なものが出っ張っていた。三角形の赤い頭に、小さな目と口がある。目の下には青いラインが横に伸びている。私は驚いて一瞬頭が真っ白になり、次の瞬間「いたー」と心の中で叫んだ。

 それが私とイロガミサマ、いやイロガミサマの中のアカガミとの初めての出会いであった。