数学者ジョン・ナッシュによって考案されたゲームの解決法があります。ゲーム理論においては、プレイヤーは自分の利得が最大となる戦略を選ぼうとします。ナッシュはこの基本原理を最適反応と呼びました。プレイヤーが互いに最適反応をしている戦略の組み合わせがゲームの解になります。ゲームの解は一種の均衡状態にあり安定していています。プレイヤーはその均衡状態から他の戦略に移ると利得が減るので動こうとはしません。その均衡状態のことを、彼の名を取ってナッシュ均衡と呼びます。

 簡単に言ってしまえばナッシュ均衡は、すべてのプレイヤーが自分の戦略に満足して、結果に後悔しない状態のことを言います。

 簡単なゲームを考えてみましょう。プレイヤーは兄と弟のふたり。ふたりは祖父から合わせて100万円をもらうことになりました。ふたりは同時に0円〜100万円までの好きな金額を1万円単位で申告することができます。そしてふたりの合わせた額が100万円以下なら申告した金額をそのままもらえます。もし100万円を越してしまったら何ももらえないというルールです。

 普通に考えたら50万円を申告するのが無難でしょう。兄も弟も50万円を申告した場合、合計100万円なのでふたりとも祖父からお金がもらえます。これはナッシュ均衡です。兄も弟も自分の戦略に満足して、結果に後悔しない状態です。

 しかし、もし兄ががめつい性格で、いつも弟の倍は求めてくる性格だとします。兄の性格を知っている弟は50万円と言うと自分がもらえない可能性が高いと考えます。兄は自分の倍を申告すると思い、弟は自分の利益が最大になる最適反応として33万円を申告するでしょう。

 そうして提示金額は弟33万円と兄67万円になりました。これもナッシュ均衡です。ところが弟の33万円の申告に対して、兄がいまひとつ不安になっていつものように強気になれず50万円しか申告しなかったとします。弟33万円、兄は50万円。ふたりの合計は100万円以下なので、ふたりとも申告金をもらえますが兄弟はきっと後悔するでしょう。兄はあと17万円もらえたのに残念と。弟も50万円としておけばよかったと後悔します。したがって弟33万円、兄50万円はナッシュ均衡ではありません。

 ナッシュ均衡は相手が減らさなくては自分の利得は増やせない、単独では戦略変更できない状態とも言えます。ナッシュ均衡ではプレイヤーはお互いに協力することなく、相手の行動は変えられないと仮定されます。

 合計100万円になる組み合わせがたくさんあるように、ひとのゲームにおけるナッシュ均衡はひとつとは限らず、複数ある場合があります。